÷0  ジャンル雑多な読書感想文
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蜘蛛女のキス
蜘蛛女のキス
マヌエル・プイグ 集英社文庫

 ラテンアメリカでガルシア=マルケスに次いで有名な作家プイグの代表作。
 何か書くと、即ネタバレになってしまうので、読んでない人にはとにかく読めとしか言いようがない。おそらく面白いだろうことは保証できるし、何も知らない状態で読んだ方が楽しめる。
 いきなり始まるワンシーンから、台詞の積み重ねによって徐々に明らかになる登場人物とその背景。アルゼンチンの不穏な政情が、二人の対話劇に緊張感を加え、先が気になる展開。
作者は、元は映画監督志望だったとのこと。

(以下ラストまでネタバレ)


 あらすじ。アルゼンチンにて。猥褻犯として逮捕された同性愛者の中年男モリーナは、マルクス主義的革命を目標とする若き政治犯バレンティンと同じ部屋に収監されている。眠れないバレンティンに頼まれ、モリーナは覚えている映画のことを語る。
 モリーナは、今で言うところの性同一性障害のように見える。異性愛者と同性愛者、高学歴と無教養、ブルジョワの息子と庶民、革命論者と保守派(寄り)、理論的と感情的。ほとんど共通点のない二人が、監獄という他からいっさいを遮断された環境で、徐々に心を通わせていく様子、そしてラストでの埋めようもない断絶が胸を衝く。二人は最初から最後まで本質的なところは変わることなく、けれど自分とは異なる相手をそのまま受け容れ、思いやることのできる関係を築くことができた。モリーナの抱いた「愛情」とバレンティンの感情は同じものではないが、それでふたりにとっては十分であるし、それ以上のことは望めないのだから。
 本筋とはあまり関係のない、同性愛についての学説を詳細に紹介した脚注は、そういった本がほとんど出版されないよう圧力がかかっているラテンアメリカにとって啓蒙的意味もあるらしい。
 ラストがとても印象的だった。変わることのなかった二人の相違が、対照的な二人のその後に表れている。モリーナは私的な目的のために悲劇のヒロインとして命を落とし、バレンティンは政治犯として過酷な拷問の合間に「ハッピーエンドの夢」を見ている。そして、今まで作り上げてきた関係性を突き崩すような、バレンティン内部でのマルタ(?)との語り。最愛の思い人であるあのマルタの語りは、本当にマルタのイメージから構成されているのだろうか。結局全てはモリーナが選んだことだし、彼(彼女?)は死にたがっていたし、「黒豹女」ならぬ「蜘蛛女」として悲劇のヒロインを演じ切れたのだし、バレンティンもモリーナとの交流や映画の情景を覚えているし、それはバレンティンが独りぼっちではないということで、確かに短い間だったけれど真の関係を持つことができたのだから、と思いつつも、なぜだかもやもやとするラストの引き際が巧み。
<だって、この夢は短いけれど、ハッピーエンドの夢なんですもの>


モリーナがバレンティンに語った、あるいは語らなかった映画
1.黒豹女 一番最初に語られ、もっとも印象的だった映画。作中でも重要なモチーフとなっている。だからあんなにキスしてはいけないと言ったのに…!こちらに映画紹介ページ。豆知識のコメントに、目から鱗。
2.大いなる愛 ナチスの宣伝映画。夢のような歌姫が、愛する青年のために命を落とす。モリーナに語られると麗しい恋と悲劇の物語だが、脚注によるこの映画のパンフレットを読んでいるととても腹が立つ。
3.愛の奇跡 醜いメイドと顔に傷を負った青年の話。外見でなく心を見ることによって、相手が美しく見える、ということは…
4.革命思想を持つ青年とその両親、そして恋人と田舎娘の映画 意外とえぐいラスト。モリーナによる意図的な編集は、優しさなのかなんなのか。地主の息子である主人公と田舎娘のエピソードがどことなく示唆的。
5.甦るゾンビー女 孤島にすむ青年に嫁いだ娘が知る島の秘密と迫りくるゾンビーの恐怖。途中に太字で挿入される内的独白の、看護婦のエピソードがよく分からなかった。
6.新聞記者の青年と大実業家の愛人の悲恋映画 『たとえ歌が覚えられているにすぎないとしても、常にあなた方と一緒にいるから』という言葉が、もやもやとするラストの一片の救いになるか?
* 2007/05/25(金) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0

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