÷0  ジャンル雑多な読書感想文
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夜の果てへの旅
夜の果てへの旅
セリーヌ 中公文庫

 まだ上巻だけだが、暗い気分の時や、明るい気分の時にはお薦めできない一冊。『戦争で活躍するものは国家の英雄』、『努力すれば勝者になれる』といった偽りのメッセージを糾弾し続けるセリーヌの自伝的小説。
 あらすじ。主人公のバルダミュは志願兵として第一次大戦に従軍するが、その後負傷し、勲章を貰った後除隊となる。フランス領植民地へ商社の社員として出向き、そこでさんざんな体験をした後、成功と敗北の国アメリカへと向かうが。下巻では、貧乏で社会の最低層に住まう主人公が、あらゆる国家や思想を唾棄し、そして呪いながら死んでいくらしい。
 話の筋は置いておいて、文体になれるまで少し時間が掛かる。口語体に近く、俗語がふんだんに使われ、『普通の』小説らしい体裁ではない。ちまたに溢れる虚構を糾弾するには、高雅で嘘くさい文体ではなく、実際に使われている言葉で、ということらしい。美辞麗句にはない、罵倒や憎悪の言葉の豊饒がめいいっぱい楽しめる。
 主人公の戦争嫌いは、反戦思想と言うより、むしろ国民を戦争に駆り立てる『フランス国家』という虚構そのものを嫌っていることから来るように思えた。本書で一貫して糾弾されている、資本主義・国家など、あまりにもその存在が当然とされている共有された『幻想』に対して、なすすべなく無惨に押し流されていくフェルディナンの姿は哀しい。
 というように、読んでいて絶望したくなるような内容なのに、なぜか暗い気分にならないのは、全編に渡ってブラックで乾いたユーモアに溢れているからだろう。読んでいて、笑っている場合ではないのに忍び笑いが漏れる。
(下巻を読んだ後、追記予定)

 今回は、軍隊から除隊になった後、乗った船で濡れ衣によってリンチに遭いそうになったとき、自尊心を捨てて主人公が窮地を逃れる一場面。ちょっと長い。
すこしずつ、この屈辱の試練が続いているあいだに、もともと影のうすかった僕の自尊心はますますぼやけ、やがて僕を見放し、完全に、いわば正式に僕jを見捨ててしまうのが感じられた。なんと言おうと、これは実に楽しい心境だ。この出来事を経験してからというもの、僕はとほうもなく自由で身軽な人間に変わってしまった。もちろん精神的にだ。(中略)
「士官の皆さん、勇者は常に手を握り合うべきではありませんか?さあ、フランス万歳を叫びましょう!フランス万歳!」
 これはブランドル軍曹のだった。この手はこんどの場合も功を奏した。これは、フランスが僕の命を救ってくれたただ一度きりの場合だ、これまではむしろその逆だったが。


(追記)
下巻で、死ぬのは主人公ではありませんでした。
感想を書けるほど考えはまとまらないけれど、圧倒的な否定から成るこの小説が、多くの作家に影響を与えたのが何となく分かるような気がする。
* 2006/09/04(月) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0

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