÷0  ジャンル雑多な読書感想文
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未来世紀ブラジル
未来世紀ブラジル
テリー・ギリアム監督

 モンティ・パイソンつながりで。DVDパッケージイラストの背景になっている一面の書類棚は、「ミーニング・オブ・ライフ」のギリアム製作アニメでも出てきてたなあ。「フライング・サーカス」などのスケッチと演出に共通するところがあるので、とりあえずたくさん出てくる爆発シーンと人が死ぬシーンは反射的に笑ってしまう。いつもの不条理・爆発オチなんだもの。
 ちなみにモンティ・パイソンは有名なブリティッシュコメディアングループだけれど、ギリアム監督はアメリカ人です。あしからず。
 あらすじ。どこかの国民管理が徹底した仮想国にて。一匹のハエによって、コンピュータ情報が一文字間違う。その結果善良な靴職人がテロリストと誤認逮捕、処刑される。その後始末のために、情報局職員サムが未亡人を訪れる。彼のよく見る夢は、自分に翼が生えて天使と共に飛んでいく夢だった。事件を処理していくなかで、その天使にそっくりの女性と会い、彼女と親しくなろうとするが…。
 SFでは結構おなじみ『超管理・情報社会下での人間疎外への反抗』というテーマだけれど、この映画ではむしろその演出や見せ方が楽しい。ヒーローと天使とモンスター達が集う夢のシーンや各種凝りに凝ったレトロチックな未来の小道具達、そのどれもがデジタル処理やアニメでは表しにくい、確かな重みを感じさせてくれる。そして筋が通っているようで、そのくせ悪い冗談のようなシーンの数々。テロや誤認逮捕など何が起ころうともとりあえず署名をしてしまう人々や、情報満載の紙に巻かれて消えてしまう人物、美容整形の果てに酸に溶けて肉塊となり果てる老女。あらゆるところに張り巡らされ、まるで生きているかのように蠢くダクトの束。
 というわけで、ごってりとイメージの奔流を楽しみましょう。
 映画の題名にもなっていて、全編通じて流れているいる「ブラジル」というサンバの明るい音楽が楽しくて、何でこの音楽が選ばれたかというと、実際のブラジルは楽園とかけ離れているのにこの音楽は理想郷のようないい感じの曲だからだそうです。というわけでこの映画は楽しいなあ。でも後味は(良い意味で)最悪です。

以下、ネタバレ

 この映画の特徴は、『現実』と『夢』が絡んで悪夢的な情景を描き出すことにあるのだけれど、最後まで通して見てみると、その連環は存外にえぐいような気がする。主人公があれだけヒロインを助けることにこだわったのは、彼女が好きだからというより、夢を体現した存在、つまり管理社会から連れ出してくれる存在を奪われたくないからに見える。実際、トラックでの逃亡シーンでサムは初対面であるはずのジルにこの役割を押しつけようとしている。サム自身、自分が管理社会を作り上げている無力な一員だと自覚しており(サムライの仮面をはがすシーンとか)、夢のなかではヒーローとなってそこからの逃走を熱烈に望んでいる。しかも、救い出すべき天使として描かれる夢のヒロインは、今ではおぞましい母親の若い姿そのままである。理想の恋人であったジルと性交渉に至る場所も母親のベッドだし、なんというマザコンオチ…。
 こうして見ると、悪夢のようである『現実』に対比されるべき『夢』の在りかたもまた、あまり希望的なものではなくて、とほほという気分になる。サムの見る『夢』は満たされない現実の単なる反転に過ぎなくて、それは悪夢のような現実に規定されうるからこそ成り立っている以上、あんまり素敵な夢にはなりえない。現実が夢をつくり、またその夢が現実を浸食していく終わりなき環。そしてそれを手術で断ち切ってしまったラストシーン。
 最初のシーンで子ども達のあこがれるサンタに扮するのは、体制側のトップであるヘルプマンである。夢の着地点もまた悪夢のような現実で、映画のラストと同じで全く救いようがない。
 そういえば『夢』と『現実』の境目は、一応尋問シーンのところでくっきり分かれるのかなと思ったけれど、考えてみれば逮捕されたはずのジルが主人公のベランダに現れること自体ありそうもなくて、後半にさしかかるあたりからもう夢が浸食しているのかもしれず、あやふやな感じです。
 この作品は全体としてわたしたちの『悪夢』なんだろうなあ、ということで締めてみる。


最後に、爆発好きなあなたにパイソンズのスケッチから一つ
* 2009/03/20(金) # [ 映画感想文 ] トラックバック:0

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