÷0  ジャンル雑多な読書感想文
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藤原定家 美の構造
藤原定家 美の構造
吉田一 法政大学出版局

 百人一首の編纂者にして新古今和歌集の随一の詠み手、藤原定家について。「絢爛たる暗号 百人一首の謎を解く」を読んで、興味を持ったので読んでみた。ちなみに「絢爛たる暗号」もすごく面白い。「暗号~」の概要は、言葉遊びが上手くて巧みに和歌を詠んだ定家がなぜ、言葉のだぶりやいまいちなセンスの歌までいれて、百人一首を作ったのかについて。ふすまに飾るはずだった歌を詞を手がかりにパズルのように並べてみれば、そこに浮かび出すのは四季折々の景色と二人の貴人への思いなのでした。
 さて、こちらの本について。

第一章 ささめき・ささやき
 定家にまつわる二人の貴人について、定家の兄が式子内親王を、定家の次女が後鳥羽上皇を語る短編小説風。和歌の幻想の美を追い求めながら、現実では俗っぽく生きる定家の矛盾あふれる不健康な恋(?)について。10も年上の高貴な女性への決して叶うことない想像上での恋愛。望みがない思慕ゆえに、和歌に詠まれる仮託された想いはより一層哀切で、切実である。そして18も年下の定家の和歌の最大の理解者にして政治も絡み合った天皇への愛憎。時は鎌倉幕府ができてまもなく。和歌へのスタンス、政治に関する立場の相違は決して埋められない溝を築き、そして承久の乱でその溝は決定的になる。
 こう見ると、遠島に流された上皇がずっと古今和歌集を編纂し直しながら執拗に定家の歌を削っていくのと、精緻な仕掛けを凝らして小倉百人一首を編んでいく定家の対比は好対照かつ愛憎溢れすぎでこわい。

第二章 定家十首
代表的な十首についての解説。
梅の花 にほひをうつす 袖の上に 軒もる月の 影ぞあらそふ
定家永遠のテーマ『梅花月光』を詠み込んだ一首。
嗅覚と視覚が争いながら描き出す美しい情景。また同時に袖→涙を拭く→失恋の悲しみという定型の連想から、恋の情景でもあり、そしてそれを捉える冷徹な視線と人情を超越した美。
 詩心がないので解説がないと良さがよく分からないけれど、その上で詠むとやっぱり巧いなあと思う。『冷艶』とはまた上手い言葉で言うとおり。あと、和歌は四季の花鳥風月とその移ろいに託して心情を語るから、風景の美しさと恋の美しさ・はかなさは不可分な組み合わせなんだと思った。

第三章 定家―歌の構造
 他に似るもののいない定家の歌の特徴について。
春の夜の夢の浮橋とだえして嶺にわかるるよこ雲のそら
夢のあわいの曖昧な情景であり、浮→憂きであり、橋→端(恋の終わり)そして「分かれる」と恋を失った悲しみの靄の中であり、そして「嶺にわかるる」は別れの歌を詠う本歌からとってきた言葉である。さらに「浮橋」などの言葉が源氏物語の宇治十帖を示唆する。これらの曖昧なイメージは互いに響きながら全て三十一文字にまとめ上げられ、曖昧でリアリティのないゆえに『美しい』情景がどこまでも広がる。
 本歌取り・かけことば・歌枕をただの言葉遊びに使うのではなく、『言葉』が蓄積してきたイメージを上手く使いながら、新しい情景を取り込むその貪欲さが素晴らしい。心情をストレートに描くのではなく、『歌い手』の感情として風景や数々の言葉と共に詠み上げる、その距離感が良いなあ。素直でなく曲がりくねったがゆえに、複雑でイメージ過剰な感じが。他の歌を見ても、何となくひねくれてる感じはするけれど。

 言葉の孕むイメージを上手く利用して、一つの文章に何重もの意味をもたせるというと、思い出すのは「ユリシーズ」だけど、詩形式と小説だとだいぶ違うからよくわからない。でもずっと昔の日本にもこういうひとが異端だなあと思うと面白い。
 よく分からない教訓臭さとか専門に偏りすぎることもなく、イメージの重ね合わせや言葉の重視、また逸脱を恐れない解釈など、私の望む定家の特長をよく捉えた良い解説書だと思いました。
* 2008/11/11(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0

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