÷0  ジャンル雑多な読書感想文
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不滅
不滅
ミラン・クンデラ 集英社文庫

 初老の女性のたったひとつの動作から沸き上がり、ゲーテやヘミングウェイや現代チェコ社会やマスコミまで巻き込んで騒ぎ出す壮大なシンフォニー。不滅の原題はimmortaliteだけれど、ここでは直訳で不死のほうがわかりやすいので、そうしておきます。
 あらすじ。色んな要素がありすぎて、まとめきれません。
 指揮者ミラン・クンデラによる500ページから成るオーケストラという感じ。はじめに流れるのは主題となるメロディである、手を前に上げるひとつの仕草。そしてここから、アニェスという女性を軸に展開部に入る。同時にゲーテとベッティーナの副主題が流れる。完全ロバ、割れる眼鏡、自殺する女など様々なエピソードが奏でられる。あやしげなアヴェナリウス教授とともに、クンデラ自身も登場して、ひとつひとつが勝手に走り出しそうなエピソードたちが、全体の一部分を成していることが見えてくる。そしてエピソードたちは共鳴しあいながらクライマックス、すなわちひとつの『死』へと辿り着く。その後の間奏は、本編と全く無関係に見えながら、本編をまた違った角度から照らし出す。ラストに静かにもう一度流れるメロディは、最初の音『不死』である。ゲーテによるファウストのラスト「永遠にして女性的なるものがわれわれを高みへと導きゆく!」の言葉と共に。
 すなわち、この壮大なオーケストラは彼女の『死』と『不死』についての物語だったのだ。
 と、したり顔で書いてみたけれど、あまり意味はないです。大筋だけ追うことが、この小説の醍醐味ではないし。恋愛だったり、家族小説だったり、死生観についてや、社会・マスコミ批評であったり、伝記だったり。どの性や生や死や社会や歴史からも距離を置くことで生まれる軽やかな文章が読みやすく、小さな小節を積み上げ、重なり合わせていく重層が、物語に複雑性と「重み」を加えている。要するに、面白かった。
 不滅の方が構成がよく練られていて、とても壮大だけれど、私としては「存在の耐えられない軽さ」のほうが勢いがあって読みやすかったような気がする。こちらはインテリのための恋愛小説。クンデラらしく、肩肘を張りすぎない程度の知識がちりばめられ、個人・国家・普遍がぐらぐらと絡まりあいながら、不思議な読後感を残します。「存在~」のほうがえろいし。

 いつもどおり好きなところを引用。今回はラスト。ベッティーナのように晴れがましい不滅を望まず、誰からも顔を背けて死んだ彼女について。
アニェスはほんのちょっとの勿忘草(わすれなぐさ)を、たった一輪の勿忘草の花を自分のために買いたいと望んだのだった。見えるか見えないかの、美しさの窮極の痕跡としてそれを眼の前にかざしたいと望んだのだった。
* 2008/10/12(日) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0

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