÷0  ジャンル雑多な読書感想文
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変身物語
変身物語
オウィディウス 岩波文庫

 個人的に、好みにぴったりでよかった。メタモルフォーゼって良いなあ。
 ギリシャ・ローマ神話を変身という主題でまとめた物語集。一つ一つの物語は短く、読みやすい。歯切れの良い散文調で、語りすぎず、必要にして十分の想像力を働かせる文章。性転換や動物への変身、水になったり樹木になったり、神々や人間の美男美女が入り乱れて、豪華絢爛な変身を繰り広げる。
 有名な「ナルキッソスとエコー」はナルシストの語源である美少年ナルキッソスが、自分に恋いこがれたあまり水仙となる話。「アポロンとダプネ」はエロス(キューピッド)を馬鹿にしたことによって、アポロンの恋した相手がアポロンを厭うあまり月桂樹へと変身する話。月桂樹となったばかりのダプネとアポロンの触れ合いがちょっと奇妙で良い。こういった変身話が何十話も続く。
 読んでいて気になるのが、魅力的で恐ろしく、それ故に美しい女性たち。結婚制度を守るため、嫉妬により災厄をまき散らす女神ユノー。魔術により義父までを殺す魔女メディア。恋の執念によって最後には文字通り相手と一心同体になるニンフや、神を敬わなかった罰として息子の首を引き抜くことになる狂女。恋に燃える神々や、ただおろおろする美女や、果敢に行動する王女など、それぞれ多種多様ですごい。
 キリスト教道徳や近代市民道徳が律する前の、今とは違う道徳観念の社会に生きている人々の様が面白い。神を敬うために供物を捧げるのが当然であり、男女ともに狩りに励み、人間くさい神々が闊歩するそんな世界。恋愛関係として、男女も男同士もあまつさえ人と動物関係さえ扱っているのに、女同士が禁じられているのは少し不思議。そういえば、プラトンの「饗宴」の恋人の前提は普通に男同士なのにびっくりした。現代と違う価値観の世界を見てみるというのは、なかなか興味深いものです。

 ちょっと長い今回のエピソード。蛮族の王テレウスに嫁いだプロクネは妹ピロメラに会いたいとテレウスに妹を連れてくるように頼む。しかしテレウスは美しいピロメラを一目見るなり気に入ってしまう。ピロメラを連れ出して陵辱したテレウスは、罪を発覚することを怖れ彼女の舌を切り取り、監禁する。しかしピロメラは機転によって姉に真実を知らせ、プロクネは「えうほい!」と叫びながら扉をぶち破って妹を助け出す。今回は、プロクネが罪の意識から涙にくれる妹にかける一言
「涙などに用はないの!必要なのは剣!そして、剣より強いもの!―そんなものがおまえにあったらね。ねえ、どんな罪深いことでもやってのける覚悟なの。松明で応急に火をはなち、張本人のテレウスを炎のなかに投げ込むもよし、あるいは、舌といわず、目といわず、お前の純潔を奪ったあの当のものといわず、これを剣で切り取るのもよいというものよ。それとも、幾千の傷を負わせて、罪深い命を葬ってしまうのも!わたしがやろうとしているのは、途方もないことなの。それが何であるか、まだわたしにもわかっていないけれど」
読むなりに恐ろしい。壮絶な復讐の内容と、その結末は読んでのお楽しみと言うことで。
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* 2007/01/28(日) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
神曲 地獄編
神曲」地獄編
ダンテ・アリギエーリ 集英社文庫

 集英社ヘリテージシリーズ第2弾。中世知識の総決算かつルネサンスの走りである作品。
 あらすじ。ダンテは見知らぬ森の中で迷う。獣に追われさまよっていると、永遠の淑女ベアトリーチェによって遣わされた、憧れの詩人ヴェルギリウスが現れる。彼はダンテを地上へと戻すために、遠回りであるが地獄・煉獄・天国を通る道を示す。そしてダンテは、ヴェルギリウスと共に地獄巡りの道へとはいる。ダンテは、地獄を下っていきさまざまな罪人達を見る。そして、最下層で堕天使のルシフェルの体を下り、二人は煉獄への道へ付くのだった。
 いきなり著者と同名の人物が脈絡なく森でさまよっているところに、憧れの人がやってきて地獄巡りを始めるという唐突な展開に驚いた。中世の神学・哲学・科学の知識をまとめ、世界観の総決算を行っているらしいのだが、その基盤となる知識がこちらにないので、読んでいてもぴんとこない。キリスト教的世界観も、なじめないし。ギリシャやローマの文学作品・聖書の引用も多く、当時の教養が偲ばれる。とりあえずオウィディウスの「変身物語」が気になった。
 けれど身の危険なく行う地獄巡りは、グロテスクな遊園地を巡るようで読んでいて楽しい。地獄を収める数々の獰猛な悪魔も、ヴェルギリウスが一喝するとしおしおと引き下がる様子も微笑ましい。読んで行くに連れて明らかになる地獄の何十もの階層構造はそれぞれの罪に対応したものとなっており、その刑罰も様々。淫欲の罪を犯したものが突風に吹きすさべられたり、汚物の沼でおぼれたり、なます切りの刑にあったり、氷付けになったり。当時権力に腐りきっていた教皇が釜に押し込められて逆さまになっていたり、オデュッセウスが嘘を付いた罪で炎に包まれていたり、有名人のオンパレード。イスラム教のムハンマドとアリーが、不和の罪を撒いたとしてなます切りにされ人体欠損しているのは、さすがにまずいのでは。全ての人間がいるはずなのに、ダンテの出身であるフィレンツェ人との遭遇確率がかなり高いのも可笑しい。(いくら当時のフィレンツェが荒んでいるにしろ)
 解説によると、韻文で書かれているらしく、文章の数や構成も計算され尽くされているらしいが、そうした文章のリズムは翻訳の過程でどうしても消えてしまうので、味わえなくて残念。キリストは畏れ多いので、文末に来ても韻を踏まないんだそうです。
 集英社文庫版には「神曲」を独自の解釈で描いたブレイクの挿絵付き。濃厚なタッチで存在感溢れるように描かれている地獄の住人とは対照的な、淡泊で女性のようにも見えるダンテとヴェルギリウス師弟は可愛らしい。面白かった絵は、生前偽善を為したものが、豪奢だが重い鉛の外套を身につけて、俯きながら歩きまわる絵。
 とりあえず煉獄編と天国編はしばらく読む予定無し。

今回の引用は、有名な地獄の門の銘文から。
われをくぐりて 汝らは入る なげきの町に
 われをくぐりて 汝らは入る 永劫の苦患に
 われをくぐりて 汝らは入る ほろびの民に
正義 高きにいますわが創造主を動かす
 われを造りしは 聖なる力
 いと高き知恵 また第一の愛
永遠のほか われよりさきに
 造られしもの無し われは永遠と共に立つ
 一切の望みは捨てよ 汝ら われをくぐる者
ダンテとヴェルギリウスといっしょに、Let's go to Hell!
* 2007/01/16(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
ガリレオの指
ガリレオの指
ピーター・アトキンス 早川書房

 ダヴィンチ・コードの二番煎じのような題名だが、中身は科学解説書。副題は「現代科学を動かす10代理論」
 500ページ近くある大著だが、生物学・科学・物理学・数学とジャンルを限定することなく、現代科学を知る上での基礎を語ってくれる。思わず吹き出すようなユーモア、多くの挿絵、分かりやすい比喩が、読み進めていく上での牽引力となって、飽きさせない工夫も多数。著者が歴としたイギリスの科学者なので、正確性を心がけるためか、幾分回りくどかったりする部分もあるが、その分変に歪曲して伝える凡百の解説書より信頼できる。下手な薄っぺらい解説書を読むより、広大な科学の概観を掴むためにも、厚さに見合った価値は十分にある。
 結構内容は高度なので、高校程度の科学知識(かじった程度でも)があった方がいいかも知れない。
 英国人らしいユーモアが散りばめられていて、無味乾燥な教科書とは違って、思わず笑わせてくれて読みやすい。例えばエネルギーの章ではこんな感じ。(エネルギー保存の法則を解明しようとした学者達は、クリスチャン)
トムソンとマクスウェルは、宇宙にどれだけのエネルギーが存在するかという疑問を抱いたかもしれない。それが神の気前の良さを測る尺度となるからだ。ふたりはきっとその量が無限だと思っていたのだろう。無限でなければ神の寛大さに制約があることになるので、神がケチだったという認めがたい可能性を示唆してしまうのだ。エネルギーは保存されるのだから、今存在する総エネルギーを見積もることができれば、最初に神から授かった量はそれと同じはずである。では、現在どれだけのエネルギーが存在するのだろう?
現在のところ、推定値では、エネルギー量は限りなくゼロに近いらしい。というわけで、神はケチだったことが推定されるのでした。
 この本の中で、中世の知識体系の元となったアリストテレスが、実験に則さず憶測で物を言う存在として随所で批判されているが、まあ、当時としては最高に合理的に考えた上での発言なのだから、あそこまで言うのは結構酷だと思った。どちらかと言えば、支配層にとって都合がよいからと、アリストテレス観を持ち上げて、検証を怠ったその後の人たちの方が批判されるべきなのではと。
 科学の抽象化と一般化の原理は、人間がいかにありふれて卑小な存在でしかないことを教えてくれるが、理性で宇宙のはじめから、繁殖の仕組み、物質の本質から、世界の規則性まで割り出すことが出来るのだから、人間も結構悪くないんじゃないだろうか。
 同じ作者による「元素の王国」も分かりやすくて良い。こちらは、元素の周期表を一つの王国に例え、その科学的特性を地理上の表記に例えている。化学の分野は、素人にも分かる良い解説書が特に少ない気がするので、その点でも貴重。(物理は、アインシュタインやホーキングのおかげか、なぜだか結構解説書が多い)
 適当な科学知識は、他のジャンルの本を読んでいる時にも参考になるので、とにかくこの本はお薦め。本当に面白かった。
* 2007/01/06(土) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
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