÷0  ジャンル雑多な読書感想文
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ラヴクラフト全集
ラヴクラフト全集
H・P・ラヴクラフト 創元推理文庫

 不穏な空気が漂う怪奇小説の大家ラヴクラフトの代表作を集めた全集。とりあえず2と1の半分まで。アメリカで唯一の神話、クトゥルフ神話を作り上げ、人気作家のスティーブン・キングも傾倒しているらしい。面白かったものだけ、簡単に感想を。
 まずは「死体安置所にて」 足首がかゆくなる短編。珍しくブラックユーモアで、短いので読みやすい。とりあえず死体は丁寧に取り扱いましょう。
 次は、クトゥルフ神話の発端となった「クトゥルフ」の呼び声。奇妙な心臓麻痺でなくなった叔父の資料を整理していた主人公は、不思議な資料を見つける。その真相を探っていくうちに、グロテスクで謎めいた邪神が宇宙を呑み込もうとしているのだと主人公は感づくが。正直これだけでは、何とも言えない。よくわからない呪文は、面白いのだが。どの国に属する言葉でもなく、発音しにくい謎の言葉が各所に妖しくちりばめられている。ル・リエー。
 「壁の中の鼠」 中編。雰囲気作りがとにかくうまい。怪しげな家系と恐怖を募らせる村人と秘密の地下室といった、ラヴクラフトお得意の道具立てで、出るぞと思わせながら、妙に鈍感な主人公のせいで読んでいるこちらが緊張する。猫が可愛かった。
 「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」 一押しの作品。上品な感じがするホラー。とりあえず塩が怖い。精神病院から消え失せた青年の記述から始まる中編。抹消された記録文書からよみがえる、妖しげな先祖の所行。奇妙な実験と隠された書簡。そして主人公とうり二つの先祖の肖像画が示すその先には。真っ暗な地下室で、一カ所だけ魔神の巣窟への落とし穴が口を開けているところに手をかけてしまうところが一番怖い。
 全体的に、ゴシックホラー調で、装飾過多な文体や、古色蒼然とした耳慣れない言葉が多く、おまけに文庫本の文字サイズが小さいこともあって、お世辞にも読みやすいとは言えない。けれど、逆にそれが裏に恐怖を醸し出しているように思える。そして何より、「現場への不在」が恐ろしい。「壁の中の鼠」でも、「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」でも、主人公といえる人物は、小説の中でその一番恐ろしい場面を語っていない。魔神がでてきたところでいきなり場面転換をしていたり、頭の中でおかしな声がしていると思ったら、いきなり我に返ると口に血を滴らせた主人公と血みどろにちぎれた仲間の姿があったりする。
 緻密に課程を描き、その決定的瞬間だけを逃し、最後に結果を示すのは、かなり後を引きました。本当に怖いことは言葉にできないのかもしれない。言葉にすることは、登場人物がある程度客観的に語り、読者と共有されてしまうがゆえに。
 血みどろスプラッタや、どろどろ怨念のホラーが苦手な人は手にとって損はないと思う。
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* 2006/09/10(日) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
夜の果てへの旅
夜の果てへの旅
セリーヌ 中公文庫

 まだ上巻だけだが、暗い気分の時や、明るい気分の時にはお薦めできない一冊。『戦争で活躍するものは国家の英雄』、『努力すれば勝者になれる』といった偽りのメッセージを糾弾し続けるセリーヌの自伝的小説。
 あらすじ。主人公のバルダミュは志願兵として第一次大戦に従軍するが、その後負傷し、勲章を貰った後除隊となる。フランス領植民地へ商社の社員として出向き、そこでさんざんな体験をした後、成功と敗北の国アメリカへと向かうが。下巻では、貧乏で社会の最低層に住まう主人公が、あらゆる国家や思想を唾棄し、そして呪いながら死んでいくらしい。
 話の筋は置いておいて、文体になれるまで少し時間が掛かる。口語体に近く、俗語がふんだんに使われ、『普通の』小説らしい体裁ではない。ちまたに溢れる虚構を糾弾するには、高雅で嘘くさい文体ではなく、実際に使われている言葉で、ということらしい。美辞麗句にはない、罵倒や憎悪の言葉の豊饒がめいいっぱい楽しめる。
 主人公の戦争嫌いは、反戦思想と言うより、むしろ国民を戦争に駆り立てる『フランス国家』という虚構そのものを嫌っていることから来るように思えた。本書で一貫して糾弾されている、資本主義・国家など、あまりにもその存在が当然とされている共有された『幻想』に対して、なすすべなく無惨に押し流されていくフェルディナンの姿は哀しい。
 というように、読んでいて絶望したくなるような内容なのに、なぜか暗い気分にならないのは、全編に渡ってブラックで乾いたユーモアに溢れているからだろう。読んでいて、笑っている場合ではないのに忍び笑いが漏れる。
(下巻を読んだ後、追記予定)

 今回は、軍隊から除隊になった後、乗った船で濡れ衣によってリンチに遭いそうになったとき、自尊心を捨てて主人公が窮地を逃れる一場面。ちょっと長い。
すこしずつ、この屈辱の試練が続いているあいだに、もともと影のうすかった僕の自尊心はますますぼやけ、やがて僕を見放し、完全に、いわば正式に僕jを見捨ててしまうのが感じられた。なんと言おうと、これは実に楽しい心境だ。この出来事を経験してからというもの、僕はとほうもなく自由で身軽な人間に変わってしまった。もちろん精神的にだ。(中略)
「士官の皆さん、勇者は常に手を握り合うべきではありませんか?さあ、フランス万歳を叫びましょう!フランス万歳!」
 これはブランドル軍曹のだった。この手はこんどの場合も功を奏した。これは、フランスが僕の命を救ってくれたただ一度きりの場合だ、これまではむしろその逆だったが。


(追記)
下巻で、死ぬのは主人公ではありませんでした。
感想を書けるほど考えはまとまらないけれど、圧倒的な否定から成るこの小説が、多くの作家に影響を与えたのが何となく分かるような気がする。
* 2006/09/04(月) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
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