÷0  ジャンル雑多な読書感想文
2005.08 « .1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30» 2005.10
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
* --/--/--(--) # [ スポンサー広告 ]
失われた時を求めて1
失われた時を求めて1

スワン家の方へⅠ 第一部コンブレー
マルセル・プルースト 集英社

 読んでいる途中にあらすじを忘れそうなので、自分のためにメモしておく。ちなみに単行本で全12巻。先は長い。
 あらすじ。語り手はベッドの中で、コンブレーでの幼い日々を断片的に思い出す。(客人であるスワンが来たので、ママンにお休みのキスをして貰えなかったことなど) ある冬の日、主人公は母親が出した「マドレーヌ」を紅茶に浸して口に入れたとき、幼い頃レオニ叔母に出して貰ったマドレーヌの味が不意にありありと思い出される。そして、この「無意識的記憶」を切っ掛けに語り手はコンブレーでの思い出が生き生きとよみがえってくる。
 まとめると、こんなに短い。
 解説に載っていた注意すべきテーマ。ユダヤ人問題、同性愛、「時」の流れ、「スワン家」の方と「ゲルマント家の方、理想(想像)と現実など。
 面白かったエピソード。母親が「フランソワ・ル・シャンピ」(捨て子のフランソワと彼を母親代わりとして育てたマドレーヌがやがて結ばれる話)を読んでいるときに、恋愛描写の部分をとばしてしまう。
 語り手がコンブレーで、小説を読むとはいかなる行為かということをつらつらと考える。

とりあえず、マドレーヌから過去の情景が飛び出してきたので満足。
スポンサーサイト
* 2005/09/25(日) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
夢十夜
夢十夜
夏目漱石 ちくま文庫


 奥泉光の「『吾輩は猫である』殺人事件」の中で、重要なモチーフになっているので読んでみた。全部で30頁弱の短い幻想小説の短編集。著作権切れなので、青空文庫の方で気軽に読むことが出来る。(http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/799_14972.html
ちなみに、「吾輩は猫である」の方は、何年か前に半分あたりまで読んで挫折中。
 「こんな夢を見た。」で始まる文章。夢ならではの、どこか恐ろしげで可笑しいような小場面が集められている。脈絡も道理もなく、ただ奇妙に綺麗な情景は、不気味だからこそ美しい。夢だから時間軸も捻れているのだが、変に合理的なのも腑に落ちるような、とにかく何とも言えない雰囲気が漂っている。
 漱石の作品は「こころ」と「坊っちゃん」くらいしか読み通したことはなかったのだが、こういうものも書く人なのかと再発見。時期的には、風刺小説の後の、「三四郎」など三部作を執筆しているときに書き上げたものらしい。(「こころ」などシリアスなものを執筆するのはこの後) 研究家筋でも、転換期の作品として再評価が進んでいるとのこと。とりあえず、文学的価値あれこれを抜きにしても、読んでいるだけで楽しい作品だと思う。
 書評をざっと見たところだと、第一夜が一番人気の様子。「百合の花」の瑞々しさや、巡る太陽、真珠貝、流れ星など幻想的なモチーフがちりばめられていて、「百年待っていて下さい」とい唐突な言葉も美しい。わたしの一押しは、第四夜の爺さんの飄々とした人を食ったような態度。
「今になる、蛇になる、きっとなる、笛が鳴る、」
「深くなる、夜になる、真直になる」


 (参考資料)自分のための、一夜から十夜までの無粋なまとめ。
第一夜 死の床についた女から「百年待っていて下さい」と言われる
第二夜 侍なら悟れと坊主に言われる
第三夜 盲目の子供を背負って森に行く
第四夜 爺さんが手拭いが蛇になると言う
第五夜 生捕りになり、鶏が鳴くまでに女が来るのを待つ
第六夜 運慶が仁王を彫り出すのを見物する
第七夜 西に行く船から海に飛び込む
第八夜 床屋の鏡から往来を眺める
第九夜 母親が父親の無事のために御百度参りをする
第十夜 庄太郎が豚に舐められる
* 2005/09/22(木) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
葉桜の季節に君を想うということ
葉桜の季節に君を想うということ
歌野晶午 文藝春秋


 奥泉光の「モーダルな事象」から、本格ミステリーマスターズ繋がりで読んだ。文春の特集「このミステリーが凄い」の一位だったらしい。図書館に3冊くらい一緒に並んでいて、うら寂しい感じが哀れでつい手に取ってしまった。
 あらすじ。妹と同居している主人公成瀬は、ある日飛び込み自殺を図ろうとしていた麻宮さくらを助ける。この出会いを切っ掛けに二人は、交際を始める。一方、高校の後輩であるキヨシの思い人、久高愛子に頼まれて、成瀬は保険金殺人を仕組んだ疑いのある健康用品の会社、蓬莱倶楽部をにわか探偵として調べ始める。探偵見習い時代にヤクザで潜入捜査を行ったときに遭遇した殺人事件と初恋の回想を挟みながら、蓬莱倶楽部を調べていくうちに成瀬は、麻宮とすれ違いを繰り返しながらも事件の真相に迫っていくが。
 目次の構成の仕方がよい。成瀬とヒロインとの恋愛と同時進行で回想される、成瀬の過去の恋愛と事件、そして誰かの陰惨な過去。トリック自体は素直なので、ミステリファンじゃなくても入り込みやすいと思う。(別段私もミステリ好きではないし)語り口もあっさりしていて、読みやすい。読後感もすっきりさわやか。主人公達の恋愛も面白いくらい、読ませるように出来ている。
 最後には一本取られたという気分になり、うまく出来たミステリだと思う。
 とりあえず、巻末に付いている補遺を先に見ては、絶対にいけない。
(以下ネタバレ注意)

* 2005/09/18(日) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
「バナールな現象」似非考察メモ
バナールな現象
奥泉光 集英社文庫


○はじめに
 本の内容に大幅に言及します。未読の方はご注意を。
 唯野教授に叱られそうな素人の印象批評だが、つらつらと考えていきたいと思う。ちなみにこの本の元ネタ「個人的な体験」(大江健三郎著)は、既読。

* 2005/09/18(日) # [ 考察 ] トラックバック:0 コメント:0
ノヴァーリスの引用
ノヴァーリスの引用
奥泉光 集英社文庫


 「葦と百合」と同じく、ミステリ風味のアンチ・ミステリ。とは言っても、短くまとまっており、文体も簡潔。奥泉を初めて読もうと思う人にお勧め。ちなみにノヴァーリスとは、神秘主義の詩人。
 あらすじ。「私」は恩師の葬式を切っ掛けに集まった大学時代の同級生達と、10年前に不可解な死を遂げた後輩について議論する。語っていく内に次々に変化していく、後輩の死の真相とは。
 語れば語るほどに曖昧になっていく、記憶と過去にあったはずの事実。死者は何も語らず、ただ生者が思いだしたときにだけ、形を変えて関係性を持つことが出来る。話の筋だけでなく、少し脱線したような生死論・日本人論など衒学的要素も楽しめる。
 それにしても、「葦と百合」といい、青春懐古調は読んでいて少し気恥ずかしい。青春時代の思い出に、記憶の改竄は付き物だから、奥泉作品のテーマ(?)とぴったりと言えばそれまでだが。
 他の書評でも引用されているのを見たが、
『あなたたちは祈ることをしない。だからぼくはあなたたちを信用しない。祈るっていうのは想像するって事でしょう? 今とは違う現実に向かって、こことは違う場所に向かって、リアルに、いろいろに、想像を巡らせることでしょう?』
『理解されることなんて僕は最初から望んでいない。人間は本当に理解しあうなんてことは絶対に出来ない。でも、人間には理解しあう以上のことができるんじゃないでしょうか? あなたたちは僕を理解しないで、僕があなたたちを理解しなかったのはたしかだと思います。しかし、本当は、僕らは理解しあうことなんかじゃなくて、もっと別のことをすべきじゃないでしょうか?』
文庫版 p.144とp.146
やっぱり、この2つのフレーズは秀逸だと思う。

 そういえば、この前読み返した「グランドミステリー」で友部氏(範子の義兄)がさりげなくノヴァーリスの引用をしていた。ファンサービスなのか、見つけると嬉しい。
* 2005/09/16(金) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
ねじの回転
ねじの回転 -FEBRUARY MOMENT
恩田陸 集英社


 今をときめく本屋大賞作家、恩田陸の作品。といっても、今のところこれ一冊しか読んだことがないのだが。恩田陸の著作の中では、異色のものらしい。ジャンルは、2・26事件を題材にした歴史改変SF。
 あらすじ。一度処刑されたはずの安藤大尉・栗原中尉は、無理に歴史を改変したために起こった災厄を避けるため現れた国連職員達によって、時間を巻き戻してもう一度2・26事件を最初からなぞることになった。一度目の「事件」の記憶は持ったままの彼らは、見張られながらも何とかクーデターを成功させられないかと奮闘する。一方、もう一人協力を頼まれた男、石原大佐(満州国建国に奔走した実在の人物)は、これを利用して日米開戦を避けようとするが。
 歴史改変はSFではメジャーだが、その改変の仕方が面白い。歴史を司るマシンが、正統とされる歴史に合わなかった場合、「不一致」として時間を巻き戻し、何度もリセットさせる。おまけに、改変に関わる人物の記憶は全部そのままという酷な設定が、人物描写に重みを加えている。
 教科書を斜め読みしたような知識しかないが、とにかく青年将校の出身地であるこの時代の地方(特に東北)は貧しかったらしい。財閥による寡占が進み、貧富の差は広がり続け、口減らしや娘の身売りが半ば公然と行われ、飢饉により食べるものにも事欠く。世界恐慌やファシズムなど不安定な時期に、日本を変えるためだと理想を愚直に信じて、死の記憶も生々しいまま、辛い2度目の生の中でなんとか2・26事件を成功させようとする青年将校二人が痛々しい。後半は、国連職員に主眼が映ってしまうので、その辺りはちょっと物足りない気がした。
 一番好きな箇所は、
「ね、おかしいでしょう?」
のところ。(図書館で借りただけなので、少し違っているかも知れない) このキャラクターのぐらつきさ加減が、歴史のいい加減さというか、絶対性の否定なのだろう。
 
 ところで、タイムトラベル系SFだと、見知ったような誰かの影が見えたというパターンは、大抵(ネタバレにより省略)だと思った。
* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
われ笑う、ゆえにわれあり
われ笑う、ゆえにわれあり
土屋賢二 文春文庫


 近頃では本屋のお薦め本のコーナーでも見かけるようになった、お茶の水女子大学哲学科の教授、土屋賢二氏のエッセイ集。最近の文春の連載はネタ切れ感が満載なので、見ていて痛々しいが。個人的にはこれと、「われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う」・「ツチヤの軽はずみ」など初期の方が好みではある。
 哲学科教授とは言っても内容は、内容は恐妻家かつ女性恐怖症気味の筆者が、周りにこき使われている(らしい)日常を、哲学っぽい気がしないでもないレトリックを交えながら書いた、気楽なエッセイ集。
 言葉を真面目に使って書いた、不真面目な文章という印象。「洗濯をする」とは一体どういう概念なのかを一生懸命書いてみたり、音楽史を振り返れば「バッハの息子のエマニエルは、『音楽』と異母兄弟」というフレーズが出てきたり。
 そう言えば、少しだけ哲学の入り口を扱ったようなものとしては、「われ大いに~」の矛盾について考察した「論よりだんご」、ソフィーの世界を茶化したような「人間は笑う葦である」の「ナンセンスの疑い」がある。
 ところで、「われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う」に入っている「『犯人はだれだ』本格物ミステリ」の、意表をつくアイデアで提案されている冗談ネタが、綾辻行人の「どんどん橋落ちた」の中の話で実際使われているのを見たとき、つい吹いてしまった。どっちが先に出したのだろう?
* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
あるひとつの「葦と百合」解釈
注意)ネタバレです。ちなみに「虚無への供物」は未読。

* 2005/09/13(火) # [ 考察 ] トラックバック:0 コメント:0
紅一点論
紅一点論
斉藤美奈子 ちくま文庫


 アニメ・特撮・伝記と子供の接するメディアでのジェンダーを論じた本。といっても、あの斉藤女史だから、非常に読みやすく仕上げてある。彼女にかかれば、天下の宮崎映画も形無し。あくまでも、表層に現れる記号としてのジェンダーを扱ったものであり、別に作品の思想性などを批判しているわけではないので、宮崎ファンでも読めると思う。
 内容は3部構成。まず、子供用メディアが「男の子の国」と「女の子の国」で住み分け、それぞれどのような女性像が描かれているかが総論として説明される。二部「紅の戦士」では、アニメ・特撮界での女性像の変遷。三部「紅の偉人」では、伝記の中で女性がどのように扱われてきたかを論じる。 
 「男の子の国」でのエヴァンゲリオン、「女の子の国」でのセーラームーン以後、両方の国でかつてのステレオタイプ的女性像は崩れ、古い型を戯画化しながら迷走を始めているという歴史は、「性」という区別が昔より曖昧になってきていることと重なっているのだろうか。
 ナイチンゲールやヘレン・ケラーなど、ある意味元祖闘う女性だった人達が、いかにして理想の女性像として確立していったかなんて件は、なかなか面白い。エネルギッシュで政治力溢れるナイチンゲールは、伝記の表紙しか見たことのない私には思いつきもしなかった。
 素朴なジェンダー意識が形成されるのは、主に低学年の子供の時なのだと思うが、子供用番組(今は仮面ライダーとかプリキュアか?)がかなり無自覚にその意識を形成していると思っていたら、この本を見つけたので納得してしまった。男女好みの別は勿論あると思うが、女の子は恋愛と変身、男の子は戦争とロボット、というあんまりにもステレオタイプそのまんまというのも、どうだろうか。時代と共に少しずつ変わってはいるのだろうが。
 斉藤美奈子の批評がこんなにも的確な気がするのは、ただ「分かりやすく」「面白く」語っているからだけではない。なぜ、このようなジェンダーがはびこったのか、時代の流れと共に、それを受容する消費者はどうだったのかと言うところまで、説明してあるので、納得しやすい。必ずしもその説明が正しいわけではないだろうし、この本を読んでいるとどんな女性を描いても批判されてしまうような気もする。が、このような切り口で痛快に語ってくれることで、文学や文化の見過ごされてきた一面を照らし出す彼女の本は、一読の価値があると思う。

変に固くなってしまたので、次は笑う哲学(?)エッセイスト土屋賢二で行きたいと思います。
* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
葦と百合
葦と百合
奥泉光 集英社文庫


 奥泉光のエッセンスが、エンターテイメントの中に詰まっているような作品だった。非常に良かったんだけれど、人によっては好きじゃないかも知れない。特に本格ミステリ好きの人とか。とりあえず付いているキャッチコピーは、ミステリとメタフィクションの完全なる融合。
 あらすじ。式根は、かつての恋人と共に参加したコミューン運動「葦の会」を、結婚を目前にして再訪とする。荒れ果てた土地となっていた跡地で、不可解な事故が起きる。回想や不気味な伝説、幻想に取り囲まれ、式根は事件の奥深くへと入っていく。
 読む上で参考になりそうな、勝手に奥泉原則。
①夢と現実とテキストの重みは、全て等しい。
②夢と現実とテキストの移行は、切れ間無しに行われる。
特に②が鬼です。分かりやすい叙述ミステリ何かだと、フォントが変えてあったり、段落を変えていたりするのだが、奥泉作品ではスムーズに移行していくので、読んでいるこちらが混乱する。いや、勿論それこそが味なわけだが。
 メタフィクションは結局紙の上での遊びに過ぎず、意味が分からないという意見を結構見かけるので、擁護論を一つ。まず本の上では、夢も現実もテキストも、全て同じ文字として表される。それを何の基準で選り分けて考えるのか。究極的には、それらは判然一帯として区別できないのではないか。そして同じ事が、紙の上を離れても言える。現実は「共有された幻想」であるとは、作中でも言われている。また、テキスト(この場合は虚構と言った方がよいかもしれない)は、現実によって作られ、現実を塗り替えていく。それは意識的に、無意識的に。この紙の上での文章が、さらに紙の外へと広がっていくある種の浮遊感覚がメタフィクションの魅力の一つではないだろうか。
 なんだかまとまりのない文章になってしまった。
 最後に、頑張って一解釈を付けてみた。「あるひとつの『葦と百合』解釈」(ネタバレ)
* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
ロートレック荘事件
ロートレック荘事件
筒井康隆 新潮文庫

 「富豪刑事」に並ぶ、数少ない筒井康隆のミステリー作品。普通のミステリと見せかけて、やっぱり筒井康隆らしい作品だった。
 あらすじ。脚に傷害を負った画家、ロートレックの作品を蒐集したロートレック荘に招かれた工藤と浜口。美女達やその家族と優雅に過ごすはずの休日が、二発の銃声による美女の死から一転する。
 前人未踏の筒井によるメタミステリーという謳い文句なので、ミステリという枠をどう壊してくれるか、かなり期待して読んだ。結果、「葦と百合」を読んだすぐ後だと、どうしてもパンチ力不足な感じが否めない。解決すべき謎があり、その謎にきちんと解答が付けられているだけで、立派なミステリだと思ってしまう。が、登場人物の設定が彼らしい。差別表現あれこれで断筆宣言したり、復帰したりしただけはある。
 挟まっているロートレックの絵が良かった。雰囲気が出る。「洗濯女」の絵に一番そそられた。
(以下ネタバレ 未読の方はご注意を)

* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
博士の愛した数式
博士の愛した数式
小川洋子 新潮社


 押しも押されもせぬ「本屋大賞」受賞作。何ヶ月か前に読んだので、詳細は忘れている。
 いつものようにあらすじ紹介。家政婦として働く主人公は、若い時のある一点を境に80分の短期記憶しか保てなくなってしまったが、並はずれた数学の才能を持つ「博士」を働き口として紹介される。息子の「ルート」を交えての、ぎこちないが心温まる交流が続いていくが。
 あっさり、すっきり、読みやすい本でした。読後に残るほろ苦さもいいアクセント。損をさせない、安心設計。あったかく、やさしいきもち(あえてひらがなで)になりたい時に、読むとよろしいかと。
 「野球」という時代を表す象徴が、味を出しています。博士は障害を負う前も、負った後も、ラストでも、同じくらいとても幸せで、不幸なのだろう。博士と主人公達との触れあいは、記憶が消えて、時が経てば無かったことになるが、確かにその瞬間にはあるのだから。
 ところで、文系の人が書いた小説の中に数学が得意な人物が出てくる場合、かなりの割合で「フィボナッチ数列」が解説されている気がする。この前読んだ本も、そんな描写があった。難しそうな感じと、多くの読者にとってぎりぎり理解できる境界にあるからだろうか。恐るべし、黄金比。
* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
魍魎の匣
魍魎の匣
京極夏彦 講談社文庫

(今更ですけど、間接的にせよシリーズのネタバレ含みます)

 今回は、今をときめく京極作品。
 あらすじは、いつもの面々に鳥口始め新しいメンバーが加えられ、少女失踪事件、バラバラ殺人事件などをそれぞれが追っていく内に、やがてある作家の小説の元へと収斂していく。そして、事件の終盤に中善寺は憑き物落としとして、重い腰を上げる。
 京極作品では今のところ、これが一番好きです。まとまっていて読みやすい印象があるし、最後の真犯人(と言うべきか)が月夜の中、屋上で殺される場面は、数あるラストでも幻想的だと思う。勝手に一人で彼岸へと到達してしまった人は、羨ましくもあり、恐ろしくもあり。バラバラ殺人の犯人が、ぐだぐだ悩み、挙げ句の果て箱詰めにまでなったのに結局得られなかったものを、さっさと手に入れてしまうのだから、何と言うべきか。
 中善寺が「憑き物を落とす」だけで、犯人を裁き得ないのは、結局「言葉」を駆使して人を納得させる物語を作るのが、彼の役割だからなのだろうか。裁くということは、何か規範となる「善」を持たねばならない。けれど、ミステリの探偵全般がそれを持たず、ただ謎を解くことのみに集中してきた。それを徹底すると、中善寺にたどりつくのだろう。その意味で、ミステリを超えたと言われる「妖怪シリーズ」は正統ミステリだと思う。
 ちなみに脱出トリックネタとしては、戦前からあるものとのこと。ミステリ界も奥が深いものです。
 次点は「絡新婦の理」。こっちは、因果関係が果てしなく広がっていき、結果が原因を再生産する構造が果てしなくて、面白い。
 京極作品は、医学の匂いがするような気がするのだが、どうなんだろう。「人工妊娠」、「延命医療」、「精神分析」、「暗示」、「洗脳」、「刷り込み」など。色んなジャンルにわたって、示唆的な文章を含むと言ってしまえば、それまでだが。
 長さに諦める人が多そうだけれど、ミステリ仕立ての筋は読みやすいし、映画効果により3巻分冊が最近発行されているので、未読の方は是非。
 ところで多々良先生の出る「今昔続百鬼-雲-」の続編は出ないのだろうか。結構楽しみにして居るんだが。
* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
エディプスの恋人
エディプスの恋人
筒井康隆 新潮文庫


 筒井康隆作品ではかなり読まれている「七瀬三部作」の三作目。
 一作目「家族八景」では、エスパーで人の心の中が読める七瀬が、お手伝いさんとして一見平凡な家族の心の中をえぐり出す短編集。
 二作目「七瀬ふたたび」では、旅に出た七瀬が他の超能力者達と出会って、国家的反超能力者集団と闘争を繰り広げる。
 そして本作、「エディプスの恋人」によって、七瀬シリーズは終わりを迎える。
ざっとあらすじは、七瀬が勤める学校の生徒であり、不思議な力によって護られている「彼」を探っていく内に、ある時七瀬は突然「彼」と恋に落ちるが・・・、というところ。
七瀬三部作の中では、一般的に評価は低めだが、自分は最後の三ページで落ちた。最後に走り出す七瀬は、二重の意味を持つのだと勝手に解釈した。自分の非存在感から逃れるために「彼」の元へ役割を全うしようと走り、かつ自らが演じる「エディプスの恋人」という作品そのものを終わらせ、「神」(筒井康隆も含むのだろうか)の手の上から逃れるために走る。「七瀬ふたたび」の登場人物がこの作品の中で存在できないのは、「エディプスの恋人」の中では演ずるべき役割がないからだと言及されているのが、切ないです。
 結局、筒井康隆にはありがちなメタフィクションなわけですが、最後でさらっと出てくるのが良かった。
* 2005/09/13(火) # [ 読書感想文 ] トラックバック:0 コメント:0
目次
短い感想は読書メーター
特に面白かったものには◎

<ア行>
赤瀬川原平 「ゼロ発信」 ◎
ギルバート・アデア 「作者の死
ピーター・アトキンス 「ガリレオの指」 ◎
網野善彦 「日本の歴史をよみなおす
グレッグ・イーガン 「しあわせの理由
いしいひさいち 「現代思想の遭難者たち
ジャネット・ウィンターソン 「さくらんぼの性は
カート・ヴォネガット 「猫のゆりかご
上野千鶴子 「差異の政治学
歌野晶午 「葉桜の季節に君を想うということ
内田百 「百鬼園随筆
オウィディウス 「変身物語」 ◎
ポール・オースター 「幽霊たち
奥泉光 「葦と百合」(+考察) ◎
奥泉光 「ノヴァーリスの引用
奥泉光 「バナールな現象」(考察のみ)
奥泉光 「蛇を殺す夜」 ◎
奥泉光 「グランド・ミステリー」 ◎
奥泉光 「神器 軍艦「橿原」殺人事件
小川洋子 「博士の愛した数式
恩田陸 「ねじの回転
ミシェル・オンフレ 「<反>哲学教科書

<カ行>
加藤周一 「日本文学史序説」 ◎
加藤尚武 「現代倫理学入門
金井美恵子 「文章教室
フランツ・カフカ 「変身
神林長秀 「戦闘妖精・雪風<改>
アルベール・カミュ 「異邦人
イタロ・カルヴィーノ 「木のぼり男爵
イタロ・カルヴィーノ 「レ・コスミコミケ」 ◎
イタロ・カルヴィーノ 「柔らかい月
イタロ・カルヴィーノ 「むずかしい愛
菊池良生 「戦うハプスブルク家
京極夏彦 「魍魎の匣
アゴタ・クリストフ 「悪童日記
ポール・クルーグマン 「良い経済学 悪い経済学
ミラン・クンデラ 「不滅
ゲーテ 「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代
レム・コールハース 「錯乱のニューヨーク」 ◎
ヴィトルド・ゴンブローヴィチ 「バカカイ
ヴィトルド・ゴンブローヴィチ 「ポルノグラフィア

<サ行>
斉藤美奈子 「紅一点論
サン-テグジュペリ 「Le Petit Prince」(星の王子さま)
ウィリアム・シェイクスピア 「ハムレット
ウィリアム・シェイクスピア 「オセロウ
ジェイムズ・ジョイス 「ユリシーズⅠ
ジェイムズ・ジョイス 「ユリシーズⅡ」 ◎
ジェイムズ・ジョイス 「ユリシーズⅢ
ジェイムズ・ジョイス 「ユリシーズⅣ
繁田信一 「殴り合う貴族たち
笙野頼子 「レストレスドリーム」 ◎
清水義範 「国語入試問題必勝法」
ジョン・スタインベック 「ハツカネズミと人間
セリーヌ 「夜の果てへの旅
ウラジミール・ソローキン 「
ウラジミール・ソローキン 「ロマン」 ◎

<タ行>
ジャレド・ダイアモンド 「銃・病原菌・鉄」 ◎
高木徹 「戦争広告代理店」
高橋源一郎 「さようなら、ギャングたち
高橋源一郎 「ジョン・レノン対火星人
バーバラ・W・タックマン 「八月の砲声(上)
バーバラ・W・タックマン 「八月の砲声(下)
谷崎潤一郎 「春琴抄
谷崎潤一郎 「鍵・瘋癲老人日記
ダンテ・アリギエーリ 「神曲 地獄編
辻惟雄 「日本美術の歴史
土屋賢二 「われ笑う、ゆえにわれあり
筒井康隆 「エディプスの恋人
筒井康隆 「ロートレック荘事件
筒井康隆 「笑うな
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 「たったひとつの冴えたやりかた
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア 「愛はさだめ、さだめは死
ジャック・デリダ 「有限責任会社

<ナ行>
ジョゼフ・S・ナイ 「国際紛争 理論と歴史
中井英夫 「虚無への供物
中上健二 「
中上健二 「枯木灘
中村圭志 「信じない人のための<宗教>講義
中原昌也 「子猫が読む乱暴者日記
夏目漱石 「夢十夜
夏目漱石 「吾輩は猫である」 ◎
夏目漱石 「坊っちゃん
夏目漱石 「私の個人主義
夏目漱石 「三四郎
野坂昭如 「エロ事師たち」 ◎

<ハ行>
ドナルド・バーセルミ 「雪白姫」◎
リチャード・パワーズ 「舞踏会へ向かう三人の農夫
ジュリアン・バーンズ 「10・1/2章で書かれた世界の歴史
トマス・ピンチョン 「ヴァインランド
マヌエル・プイグ 「蜘蛛女のキス
藤田静男「空気頭
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて1 スワン家の方
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて2 スワン家の方
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて3 花咲く乙女たちのかげに
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて4 花咲く乙女たちのかげに
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて5 ゲルマント家の方
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて6 ゲルマント家の方
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて7 ソドムとゴモラ
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて8 ソドムとゴモラ
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて9 囚われの女」 ◎
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて10 囚われの女
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて11 逃げ去る女
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて12 見出される時
マルセル・プルースト 「失われた時を求めて13 見出される時
エミリー・ブロンデ 「Wuthering Heights」(嵐が丘)
サミュエル・ベケット 「ゴドーを待ちながら」 ◎
ジョーゼフ・ヘラー 「キャッチ=22」 ◎
ホルヘ・ルイス・ボルヘス 「伝奇集」 ◎

<マ行>
舞城王太郎 「阿修羅ガール
ガルシア・マルケス 「百年の孤独」 ◎
トーマス・マン 「魔の山
三浦佑之 「日本古代文学入門
三島由紀夫 「金閣寺
三島由紀夫 「天人五衰

<ヤ行>
山田正紀 「ミステリ・オペラ
山本七平 「一下級将校の見た太平洋戦争」
夢野久作 「ドグラ・マグラ」(+考察
マグリット・ユルスナール 「東方綺譚
吉田一 「藤原定家 美の構造
ヨースタイン・ゴルデル 「ソフィーの世界」
養老孟司 「人間科学」
米村圭吾 「風流冷飯伝

<ラ行>
H・P・ラヴクラフト 「ラヴクラフト全集
コンスタンス・レイド 「ゼロから無限へ 数論の世界をたずねて
スタニスワフ・レム 「ソラリス」 ◎
スタニスワフ・レム 「完全な真空
スタニスワフ・レム 「虚数
スタニスワフ・レム 「宇宙創世記ロボットの旅
スタニスワフ・レム 「泰平ヨンの航星日記
J・T・ロジャーズ 「赤い右手
アラン・ロブ=グリエ 「迷路のなかで」 ◎
J.K.ローリング 「Harry Potter and the Half-Blood Prince」(+Luna考察)
J.K.ローリング 「Harry Potter and the Deathly Hallows

<ワ行>
鷲田清一 「モードの迷宮

<アンソロジー>
人獣怪婚」(現代異類婚姻譚)
世界は何回も消滅する」(同時代のアメリカ小説傑作集)
20世紀SF①星ねずみ」(1940年代英米SF)

<その他>
アニメ「少女革命ウテナ
映画「カリガリ博士
映画「映画感想文
映画「タクシードライバー
映画「真夜中のカーボーイ
映画「博士の異常な愛情
映画「未来世紀ブラジル
映画「夏の西部劇フェア
映画「スタンドバイミー
映画「野獣死すべし
映画「Help!・A Hard Day's Night
映画「ミスティックリバー
少女漫画色々「少女漫画日和
* 2005/09/13(火) # [ 目次 ]
about
週に一度位を目安に、読書感想文を書いていく予定。
一冊あたりの記事の長さは、少々長目。
新刊・話題の本は少な目。
日本文学・海外文学・SF・評論に科学解説書など、ジャンルは広く浅く。
たまに考察なんかも付きます。
時々、映画感想文も。
コメント・トラックバックはご自由にどうぞ。

傾向と対策:面白ければなんでも良いじゃない
好きな作家(海外):ボルヘスとかレムとかカルヴィーノとか
好きな作家(国内):奥泉光とか清水義範とか

* 2005/09/13(火) # [ about ] トラックバック:0 コメント:0
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。